太田あさひの日誌

旧・中西香菜さんがおすすめの映画をひたすら観るブログ。アンジュルムの中西香菜さんがおすすめする映画の感想だけでなく、旅行や考えごとについて書き残す。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』ネタバレ感想

まずはじめに、この素晴らしいアニメ映画を、京都アニメーションで起きた残虐な事件と共に語ることを許してほしい。

 

わたしは、アニメに救われたことがある。9年前、高校1年生のわたしは、学校へ行く振りをして公園やショッピングセンターをふらふらと歩いていた。もちろん、毎日だ。不登校だったのである。毎日、学校に行けない自分に落胆していた。自殺未遂をすることもあった。夜は眠れなかった。なので、アニメを見た。アニメというのは不思議なもので、いつどんな作品を見ても、全てが「弱者」の味方だった。アニメのなかに現実は存在しないからだ。いわゆる「日常系」の作品も、アニメーションの手にかかれば一気にファンタジーになる。アニメは、不登校だったわたしが唯一傷つかずにいられる世界だった。

初めは、エヴァまどマギなどの終末的な世界観に惹かれた。最も自分の心情とシンクロしていたのだろう。アニメは子ども向け、もしくは「キモオタ」のものだと思っていたわたしは、すっかり魅了されてしまった。アニメが好きになり、名作と呼ばれるものを調べた。そこで見つけた作品のなかに、京都アニメーションの作品がたくさんあった。ハルヒけいおんらきすたCLANNADなど、一気に見た。泣いたり笑ったり、いろんな感情をアニメからもらった。そんな感情をTwitterのフォロワーと話し合った。仲良くなったフォロワーと会って遊んだ。親友になった。フォロワーに背中を押してもらい、「学校に行こうかな」と思えた。翌年の4月からわたしは高校へまた通い始め、友人にも恵まれ、1年遅れで高校を卒業した。

学校に行く人生が必ずしも「正解」だとは思わない。けれど、学校に行けない自分に落胆し続けていたわたしは、アニメに出会って、学校に行き始めて、楽しかった。いろんな人がいてもいい、つまずくときだってある。そんな当たり前のことを、アニメと、アニメを通して出会った友人に教えてもらった。アニメは、自殺未遂をするほどに落ち込んでいたわたしの、文字通りの恩人なのだ。

 

そんな恩人の1人である京都アニメーションが残虐な事件に遭った。ここ数年アニメから遠ざかっていたわたしは、京都アニメーションの名前を聞くのも久しぶりだった。久しぶりの再会が、こんな酷い事件だと信じたくなかった。

わたしは、スタッフさんの名前などにはあまり詳しくない。どちらかというと声優オタクだった。だから、先日公開された被害者の方々の名前を見てもピンと来ない。けれど、わたしを救ってくれたあの作品たちを生み出してくれた方々が突然にいなくなったのだということはわかった。血の気が引いていく感覚があった。

わたしは、今年の4月、毎日150時間を超える残業を続け、心身を壊し、現在半ニート状態である。仕事ってなんだろう? 身体を壊してまでやりたい仕事ってなんだろう? 誰かの役に立ちたいと思って始めた仕事で、自分が壊れている。このまま仕事に復帰しても、わたしは何をすることができるのだろう。頭のなかをぐるぐるとマイナス思考のことばが回っている。

正直、今の心情のまま、昔の京アニ作品を見ることはできない。不登校だったあの1年間、アニメを見ている間だけはあんなに楽しかったのに、いま見たら全て辛い記憶に変わってしまう気がする。もしそうなったら、いまを踏ん張る力さえ失われてしまうかもしれない。それだけは耐えられない。だから、新作を観た。これが、わたしにできるせめてもの「復讐」だと思った。

 

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』は、そのタイトル通り、TVアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のサイドストーリーである。わたしはTVアニメを観ていなかったが、「1つの作品として独立しているのでTVアニメ未視聴でも楽しめる」という友人のことばを信じて、朝イチの席をとった。平日にも関わらず、客は多い方だったと思う。

ともかく、泣いた。京アニらしいきれいな表現がたくさんあった。光のコントラスト、自然の風景、キャラクターの目からあふれる涙、すべてが美しい。

愛する妹・テイラーのために自分の人生を「売り渡した」エイミーは、貴族の養子となり不自由な人生を送る。期間限定の教育係として現れた自動手記人形・ヴァイオレットに投げつけた「君は何処へでもいけるんだ」ということばが切ない。一方のテイラーは孤児院ですくすくと成長し、数年後ヴァイオレットの元を訪れ、郵便配達人として雇ってもらうよう懇願する。「郵便配達人は、幸せを届けるから」。

物語を通して、重要なキーになるのが「手紙」だ。最愛の妹テイラーに会うことすら許されないエイミーは、教育期間最後の夜、ヴァイオレットに手紙を託す。「これはあなたを守る魔法の言葉です。エイミー、ただそう唱えて」。その手紙はテイラーに届けられ、「幸せを届けたい」という夢を与える。

物語終盤、テイラーからエイミーへの手紙を託された郵便配達人のベネディクト。エイミーはすでに居場所すらわからなくなっていたため、ヴェネディクトは断ろうとする。「ねぇねに、届けて」と頭を下げるエイミーに、「届かなくていい手紙なんてねえからな」と返す。うろ覚えの読み書きで手紙を書くことに不安を感じていたテイラーに、「想いは届くはず」とやさしくことばをかけたヴァイオレットの姿も重なる。

想いは届く。届かなくていい想いなんてない。

温かくて、勇気づけられるメッセージを受け取った。

 

捨てられていたテイラーの手を取り、「決めた。僕の妹にする」と宣言するエイミー。仕事相手の主人に「ろくな生き方してないお前にできるわけがない」と言われ、エイミーはこう答える。

「復讐だよ、こんな生き方しかできないことへの。何もないわたしが、この子に与える」

「何もない」はずだったエイミーから与えられたもののなんと大きいことか。テイラーが受け取った大きな愛は、「幸せを届ける」夢へと成長した。

「何もない」わたしでも、誰かに何かを与えられる。わたしにとっての「復讐」は、はやく元気になって、自分を大事にしながら仕事に向き合うことだ。そう思わせてくれた。

 

この作品をつくった方々も、亡くなったのだろうか。答えがどちらであれ、悲しいことに変わりはないので、調べていない。

エンドロールが終わり、新作映画の予告編が流れた。『劇場版  ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だ。スクリーンには、「鋭意製作中」と大きく映し出されていた。